「13番目」は「世にも奇妙な物語 SMAPの特別編」で放送されたオムニバスドラマの一つ。
訳の分からない世界に閉じ込められるてパニックに陥る人間の心理を描いていますが13番目の客の考察・解説は?
13番目の客の考察・解説 世にも奇妙な物語
「13番目」のストーリーが始まる前、ストーリーテラーのタモリが、こう言います。
「鎖に繋がれている犬と、野放しになっている犬。鎖に繋がれている犬には、自由はありません。しかし、決まった時間に餌を貰える楽しみ、散歩に出る時の喜びがあります。繋がれていない犬は、一日中食事も散歩も自由です。どちらが幸せなのでしょうか―――」
「13番目」の床屋はつまり、一度入ったら最後「もう出られない店」で、店から出る手段はただ一つ、自分も床屋の従業員として店に残り、下っ端から徐々に自分の序列を一段一段上げてゆき、最後に客の髪を自分が切る事、そうすれば、宛ら「卒業」という形で店を出る事が出来る、というわけです。
そしてその店の従業員数が自分を含めて13人。だから、店から出るには「13番目の客」の髪を切らなければならないのです。
先輩が言う「新しい環境に馴染むための4つの段階」について、本編では「次の段階」が何であるのか明確にはされていませんでしたが、某所によると、実は台本には答えがあったようです。
ストーリーテラーの「この理髪店を出た後に待ち受けるもう1つの試練。それは、この店の秩序に依存する心との戦いなのです」にある通り、一度自分が育てられた場所からは離れられにくくなる。
しかも、その場所はむしろルールに縛られている方が余計なことを考えずに済むので、外に出るのが怖くなってしまうといったことのようです。
戦い方を忘れた飼い犬が、元いた戦場に再び放り込まれてしまったわけです。
スーパー経営の冷血社長(=野生の犬)だったのがすっかり平和に慣れてしまったのに今すぐ戦場で生きていかなければならない…
「そんなの無理だ!」と思って、平和な世界(美容室)に戻ろうとしますが美容室は姿をなくしていましたので、さらにパニックになったのだと思います。
元の世界に戻りたくなる帰巣本能との戦いといったところでしょう。
実際に暮らしているそのときはその場所が辛くてたまらないけど、時が経ちそこを出たあとになると、その場所が天国のように思えてくる、しかし一度巣立つともう戻れない・・・。タモリさんのストーリーテラーも的を射ています。
最後の郵便配達員のあの自転車が語っているように先輩は職場復帰ができてません(手紙が散乱している)。
つまりこの「秩序」に統制された世界で鍛えあげられても、以前の世界には順応できていないのです。
ここで「待ち受けるもう1つの試練」が「秩序社会への帰還」であって、そこへ戻りたくても消えてなくなっている。「復帰」も「帰還」も許されない。
13番目の客あらすじ・ネタバレ世にも奇妙な物語
本田謙一郎(草なぎ剛)は不況と戦うディスカウントショップのやり手の社長。
今日も携帯で部下を叱りとばしながら、商売のため出たくもない政治家の息子結婚式に招待されたため車を走らせている。
髪も髭も伸びているのでたまたま見かけた理髪店に入ると・・・。そこから、奇妙な世界に迷い込んでしまうわけです。
13人の店員に出迎えられ、戸惑いながらもヒゲ剃りだけを任せるが、店員は髪の手入れまで始めてしまう。
良く見ると、床屋はものすごく秩序・規律が保たれていて、ある者はクリームを泡立て、ある者はシーツを被せ、ある者は切った髪の掃除をしています。
やがて髪を切り終えて、代金を支払おうとしたところ、それより先に店長らしき店員が、仕事終わりとでも言うように身なりを整え、店を出てしまう。
自分を無視して店長を見送る他の店員に苛立ちながら車へ戻ろうとしても、どういうわけか、「目に見えない不思議な力」に阻まれて、店(のエリア)から出られません。
戸惑う彼に店の従業員の一人が言うには、1人客が来たら1人が出られるシステムなようだ。
それまでは徹底した秩序の下で過ごさなければならない。
怒りのあまり社長は暴れだすが、店員たちは社長を押さえつけ、縛り付けてしまう。
「ここから出せ!」と叫ぶも、誰も取り合おうとはしません。
やがて空腹の為フラフラになるが、店員の一人は、秩序を守らないと食事は出ないという。
椅子に掛けて、秩序を受け入れれば食事は出るというが、社長は意地でも椅子に座らない。
それを見かねた別の店員が、「余った食事を与えるのは秩序を乱すのか?」と問う。
その言葉に店員たちは固まり、そして食事を少しずつ、社長の席に置いた。
誰もいなくなった食卓で、社長は久々の食事に貪りつき、そして震えながら涙を流した。
「始めは床掃除からです」。
次の日から、社長は秩序の輪に入り、床掃除から始める。
そんな社長に、店員達もやっと、先輩として厳しくも暖かい言葉をかけるようになった。
かつての自分とはかけ離れた仕事に戸惑いを感じながらも、少しずつ楽しさを見出していく。
新しい客がかつての自分のように怒りを見せれば、優しい言葉をかけて諭したりもした。
そんなある日、寝室で一人の先輩に声をかけられる。
先輩が言うには、新しい環境に馴染むためには4つの段階がある。
新しい環境への好奇心、今までの自由が消えたことへの不満、後輩への知ったかぶり。
それを経て、ようやくそこの文化を自分のものにし、住人となれるのだ。
だが、この床屋を出たものは、もう一つの段階を経験するという。
やがてその先輩がこの床屋を旅立つ日が来る。
郵便配達員だった彼は、この先にある段階が何なのか、自分の目で確かめるといっていた。
12人の店員がいて、次にやってきた客の髪を序列が1番の者が切り、店を出ていける。
その客は店員としてそこに序列の最後に加わる。
客は1ヶ月に一人くらいしか来ないので、店を出ていけるまでには1年以上かかる。
最初は反抗したが結局その秩序に飲み込まれ、1年以上経ってやっと序列が1番になり、
そして客の髪を切り、出て行けることになった。
久しぶりにスーツに身を包み、みんなに見送られながら床屋を後にする。
長い仕事を終えた社長は、清々しい顔をしていた。
ここに来た時の険しい顔からすれば、憑き物が落ちたかのようだった。
みんなの拍手に送られ外の世界に出た時、携帯が鳴った。
相手はかつての自分の部下。
部下からの喜びの声に呆然としながら、今がいつなのかを問いかける。
外の世界は1年前のままだった。
社長が床屋に入ってから、実は時間は経っていなかったのだ。
だが、嬉々とした部下の声とは裏腹に、社長は呆然としていた。
混乱する剛。先輩が言っていた「次の段階」がこれだったのか。
彼の目の前には、郵便配達の自転車が倒れていたのだ。
理不尽な世界に閉じこめられていたはずが、
外に出てみるとその世界が幸福な世界であったことに気づいてしまう。
後ろを振り返り、あの床屋へ帰ろうとする。
しかし床屋はどこにもなかった。
もはや現実には適応できなくなってしまったのか。
理髪店に戻りたいがもうそこには店はなかった・・・。
「床屋が見えない…もう一度入れてくれ…見えない…見えない…俺を入れてくれぇ…!」