エステル合成反応で濃硫酸の役割は?
エステルの合成反応は求核アシル置換反応を利用しているということですが、エステルの合成実験で酸触媒に濃硫酸を使用するのはどうしてなんでしょうか?
エステルの合成で酸触媒(濃硫酸)の理由は?
エステルの合成実験のときに酸触媒として濃硫酸を使用する理由について、脱水作用と水素イオンによる反応促進です。
希硫酸や塩酸、硝酸などでは水が入るので平衡の面で不利になります(反応の平衡が原料側に傾く)。
た、塩酸は揮発性なので加熱すると逃げていってしまうという問題点も。
リン酸でも反応が進みますし酢酸エチルでも進みますが脱水作用が強いので濃硫酸が好まれます
リン酸などよりも強い酸なので、触媒作用も高いと考えられさらに、安価で入手しやすい酸であるなどの理由もあるでしょう。
現実問題として、脱水作用はさほど期待されていないと思う。何しろ生じると考えられる水と比較して、使う濃硫酸の量はわずかであり、通常は、他の脱水剤を加えたり、脱水できるような装置を使います。
一般論で述べるならば濃硫酸を触媒としたエステル化において用いられる濃硫酸の量は、生成するはずの水の量に比べて遥かに少ないのが普通ですから、その脱水作用はさほど重要ではないでしょう
硫酸は、カルボニル基をプロトン化し、最終的にH2Oを脱離させるという意味では脱水の触媒になると言えます。
■カルボン酸とアルコールからエステルができる反応
RCOOH + ROH → RCOOR + H2O ・・・・・①
の反応はカルボン酸とアルコールを混ぜただけではきわめてゆっくりとしか反応しないため濃硫酸を加えてます。濃硫酸のように反応速度を大きくする物質を『触媒』といいます。エステル化の濃硫酸の働きを脱水剤という人がいますが、間違いとはいいませんが触媒といったほうが正確です。
エステル化反応は酸があると速く進行します。また、大切なことはエステル化反応は可逆反応であるので平衡状態になり、原料をすべてエステルにすることができないことです。そして反応系内に水が多量にあると①式の平衡はH2Oが減少する方向に移動してしまう(平衡移動の法則orルシャトリエの原理)ことです。ですから触媒として加える酸には水ができるだけ含まれないものを選びます。市販の濃硫酸は約95%で水がほとんどないのに対して濃塩酸は約35%、濃硝酸は約65%で水を多量に含んでいます。またHClは揮発性があることやHNO3は酸化作用がある点でも不適当です。
【反応機構】
まず硫酸がカルボン酸RCOOH[R-C(=O)-OHと書きます]のC=OのO原子にH+を押し付けます。
R-C(=O)-OH + H2SO4→ R-C(=OH)-OH + HSO4- ・・・・①(C=OHのO原子が+になります)
これに、アルコールのR’-OHのO原子が二重結合炭素のところに結合します。(このとき二重結合は単結合になります)
R-C(=OH)-OH + R’-OH → R-C(-OH)(-OHR’)-OH ・・・・②(-OHと-OHR’と-OHがC原子に結合してOHR’のO原子が+になります)
つぎに、一方のOHR’のHが他方のOHのO原子に移動して、
R-C(-OH)(-OHR’)-OH → R-C(-OH)(-OR’)-OH2+ ・・・・③(+はいちばん右のO原子です)
H2OがとれるとともにC=O二重結合ができて、
R-C(-OH)(-OR’)-OH2+ → R-C(=OH)-OR’ + H2O ・・・・④(+は=OHのO原子です)
最後に①でできたHSO4-がH+を受け取ります。
R-C(=OH)-OR’ + HSO4- → R-C(=O)-OR’ + H2SO4 ・・・・⑤
とくに+の電荷の位置がここではうまく書けなくて。①で反応したH2SO4が⑤で再びできるから、反応全体としてはH2SO4は消えてなくなってしまうのです。これが触媒です。