ひよこの眼【解説】伝えたいことは？幹生の死因は？

山田詠美の小説「ひよこの眼」は、中学三年生の少女亜紀が、転校生相沢幹生の目に懐かしさを感じ、その理由を探るうちに、幹生の死を予感し、恋をする物語。

亜紀は、幹生の目に、かつて自分が飼っていたひよこの死を見つめる目と重なり、恐怖と同時に引かれていくことに気づきます。しかし、幹生は父親の自殺に巻き込まれ、亜紀は彼を救えませんでした。この作品は、死の不条理と、幼い愛情の残酷さを描いた、切ない青春小説です。

【ひよこの眼】山田詠美の青春小説！あらすじと伝えたいことを解説

山田詠美さんの短編小説「ひよこの眼」は、1990年に発表され、その後多くの高校の国語教科書に掲載されるようになった人気作品です。

この記事では、「ひよこの眼」のあらすじはもちろん、幹生の死因や作品全体を通して作者が伝えたいことなどを、わかりやすく解説していきます。

「ひよこの眼」のあらすじ

主人公の「私」こと亜紀は中学3年生。ある日、亜紀のクラスに相沢幹生という少年が転校してきます。

幹生はどこか超然とした雰囲気を漂わせる少年で、クラスの女子たちはそんな彼を「大人っぽい」と噂するようになります。 しかし、亜紀は幹生のことを「大人っぽい」とは感じませんでした。

幹生と初めて出会った時、亜紀は彼の瞳に不思議な懐かしさを感じたのです。

一体なぜ自分は幹生のことを懐かしく感じるのか？ 亜紀は理由がわからずモヤモヤとした気持ちを抱えながら、幹生の姿を目で追うようになります。

ある日の授業中、亜紀が幹生を見つめていることに気づいたクラスメイトたちが、2人の仲を冷やかします。 亜紀は幹生のことを好きになったわけではなく、ただ彼の瞳の謎を解き明かしたいだけなのに、勝手に誤解されてしまうことに腹立たしさを感じます。

その後、亜紀と幹生はクラスのイベントがきっかけで一緒に帰るようになり、次第に親密な関係になっていきます。 亜紀は幹生のことを意識するようになり、幹生もまた、亜紀に対して好意を抱いていることを告げます。

しかし、亜紀が家に帰ると、妹がうさぎを飼いたいと母親に駄々をこねる場面に遭遇します。母親は、以前ひよこを買ってきてもすぐに死なせてしまったことを妹に思い出させます。

そのとき、亜紀は衝撃を受けます。死んだひよこの様子を思い出すうちに、亜紀は幹生の瞳と、あの時死んでしまったひよこの瞳が全く同じであることに気が付くのです。

ひよこは、まるで自分の死期を悟っているかのような、諦観したような目をしていたのでした。 幹生もまた、ひよこと同じように、死を予感させる目をしていたのです。

そしてその翌日、幹生は学校に登校してきません。

幹生の死因

幹生の身に一体何が起こったのか？ クラスでは、幹生の父親が自殺し、幹生も道連れにされてしまったという噂が広まります。

そして後日、担任の教師によってその噂が事実であったことが伝えられます。

幹生の死後、亜紀は街中や電車の中で、幹生と同じように「ひよこの眼」をした人々を度々見かけるようになります。

「ひよこの眼」の伝えたいこと

「ひよこの眼」という作品を通して、作者は私たちに何を伝えようとしているのでしょうか？

この作品には、死の不条理さや幼い恋愛のもどかしさ、そして目を背けたくなるような現実と向き合っていくことの大切さといったテーマが込められています。

死の不条理さ

幹生は、父親の借金や病気など、自分ではどうすることもできない現実に苦しんでいました。 そして、亜紀と心を通わせ、文化祭を楽しみにしているさなか、突然命を絶たれてしまいます。

人はいつ、どのように死ぬのか誰にもわかりません。

理不尽で不可解な死は、いつの時代にも存在します。

幼い恋愛のもどかしさ

亜紀は、幹生の瞳に不思議な懐かしさを感じ、彼を追うように見つめ続けるようになります。 そして、幹生と親密になるにつれて、彼のことが好きになっていきます。

しかし、亜紀はまだ15歳。

幹生の抱える苦しみを本当に理解することはできず、自分の感情に精一杯でした。

目を背けたくなるような現実と向き合う

亜紀は、幹生の瞳が死を予感させるものであることに気づきながらも、彼との楽しい時間を優先してしまいます。

しかし、幹生の死によって、目を背けてばかりではいられないということに気づかされます。

「ひよこの眼」は、私たちに残酷な現実を突きつけると同時に、目を背けずに真正面から向き合っていくことの大切さを教えてくれる作品だと言えるでしょう。

まとめ：ひよこの眼【解説】伝えたいことは？幹生の死因は？

「ひよこの眼」は、中学3年生の「私」、亜紀の視点で語られる物語です。 物語は、季節外れの転校生、相沢幹生の登場から始まります。 幹生は、教師の言葉に反応せず、まるで違うものを見ているような、不思議な雰囲気を持った少年でした。 クラスメイトたちは、そんな幹生を「大人っぽい」と噂しますが、亜紀は彼の瞳に言いようのない懐かしさを感じます。 亜紀は、その懐かしさの理由を探ろうと、幹生を目で追うようになります。 しかし、その行動がもとで、クラスメイトたちは亜紀が幹生のことを好きだと勘違いし始めます。 亜紀は戸惑いながらも、文化祭の実行委員を幹生と二人で務めることになり、次第に親密な関係を築いていきます。 幹生は、亜紀と一緒にいる時は笑顔を見せることもありましたが、ふとした瞬間に見せる表情は、彼自身が抱える深い苦悩を物語っていました。 亜紀は、そんな幹生を心配し、彼を笑顔にしたいと願うようになります。 しかし、幹生は自身の境遇を「冗談」だと偽り、亜紀に心配をかけまいとします。 そして、ついに二人は互いの気持ちを告白し合います。 しかし、その直後、亜紀はかつて自分が世話していたひよこが死んだ時のことを思い出します。 死の直前、ひよこはまるで全てを諦めたかのような、澄んだ目をしていたのでした。そして、亜紀は、幹生の瞳が、あの時見たひよこの目と同じであることに気づき、恐怖を覚えます。 翌日、幹生は学校に姿を現しません。 クラスでは、彼が父親の自殺に巻き込まれたという噂が広まります。 亜紀は、幹生の瞳に死の影を見ていながら、彼を救うことができなかった自分自身を責め、深い悲しみに暮れます。 物語の終盤、亜紀は街中で「ひよこの眼」をした人々を見かけるようになります。 彼女は、彼らに「死を見つめているのですか？」と問いかけたい衝動に駆られますが、結局何もできずに終わります。 「ひよこの眼」は、思春期の淡い恋心と、死という重いテーマが交錯する物語です。読者は、亜紀の視点を通して、人生における不条理さ、若さゆえの無力さ、そして目を背けたくなるような現実と向き合っていくことの大切さを突きつけられます。