「仄暗い水の底から」について。
鈴木光司氏のホラー小説「仄暗い水の底から」とその映画版の違いは?映画版と原作版それぞれの魅力は?
仄暗い水の底から|映画・原作の小説の違いは?
映画「仄暗い水の底から」は、鈴木光司の短編集に収録されている「浮遊する水」が原作です。しかし、映画と原作の間には、大きな違いが2点あります。
まず1点目は、亡くなった少女・美津子の描写の違いです。原作では、美津子は姿を見せることはなく、主人公の淑美とその娘・郁子を不可解な現象に陥れることで、間接的に存在をほのめかします。 一方で映画では、美津子はより直接的に主人公たちに接触してきます。例えば、水道から髪の毛の束が流れ出てきたり、郁子が浴槽に引きずり込まれそうになったりするシーンは、原作にはありません。 このように、映画は原作よりもホラー要素を強調した作品となっています。
2点目は、ラストシーンの違いです。原作では、怪奇現象におびえる淑美が、郁子を連れてマンションから去るシーンで物語は終わります。 一方で映画では、淑美は娘を守るために、美津子の母親代わりとなり、共にマンションに留まることを決意します。そして10年後、成長した郁子が廃墟となったマンションを訪れると、そこには美津子と暮らす淑美の姿がありました。 このように、映画は原作とは全く異なるラストシーンを迎えます。
原作と映画、どちらにも共通して言えることは、「母と娘の愛情」というテーマが根底に流れているということです。 しかし、その表現方法や物語の結末は大きく異なっています。原作は、日常に潜む恐怖と、母親としての不安や葛藤を描いた作品と言えるでしょう。一方映画は、母と娘の絆と、親子の愛情を描いたヒューマンドラマ的な要素も持ち合わせています。
仄暗い水の底から|映画・原作の小説は怖い?
「仄暗い水の底から」は、静かに忍び寄る恐怖と人間の欲や後悔を描いた作品として、怖いというよりは、ジワジワとくる怖さとされています。
「恐ろしい幽霊や妖怪が出てきて殺しにかかってくる」といった直接的な恐怖ではなく、「静かに忍び寄る感じ」で、心理的な恐怖を煽ります。
「仄暗い水の底から」は、以下のような要素を含むホラー小説です。
- 水の恐怖: 海や水にまつわる恐怖を描写し、日常生活に潜む恐怖を演出しています。
- 閉鎖空間の恐怖: マンションや洞窟、船など、閉鎖的な空間を舞台にした物語が多く、逃げ場のない恐怖を描いています。
- 人間の負の感情: 登場人物たちの欲や後悔、自責の念などが、恐怖をさらに増幅させています。
「仄暗い水の底から」の映画版では原作以上に直接的な恐怖描写が見られるようです。 例えば、水道から髪の毛が束になって出てきたり、娘が浴槽に引きずり込まれそうになったりするシーンは、映画版独自の演出です。
「仄暗い水の底から」は「怖いけど読みやすい」作品と評価されています。 心理的な恐怖や人間の負の感情を巧みに描いた作品であるため、「怖い」と感じるかどうかは読者によって異なるかもしれません。
仄暗い水の底から|映画・原作の小説ストーリー
「仄暗い水の底から」は、水と閉鎖空間をテーマにしたホラー短編集です。映画化もされた「浮遊する水」を含む、全7話とプロローグ、エピローグで構成されています。
1. 浮遊する水:
主人公の淑美は、幼い娘・郁子と二人で暮らすシングルマザーです。新生活のため、海沿いのマンションに引っ越してきた二人ですが、そこで不可解な現象に悩まされることになります。
- 屋上で、住民の子供のものではないはずの赤い子供用バッグを見つける。
- 天井から雨漏りがする。
- 上の階から子供の足音が聞こえるが、上の階は誰も住んでいない。
- 水道水から髪の毛が出てくる。
- 郁子が、見えない誰かと話すようになる。
これらの現象は、過去に同じマンションで起きたある出来事と関係していることが明らかになっていきます。
2. 孤島:
教師である謙介は、かつての恩師から、第六台場(通称:幽霊島)の実地調査に誘われます。謙介には、9年前に友人から聞いた「友人が第六台場で恋人を置き去りにした」という話が心に引っかかっていました。 謙介は、真実を知るために恩師と共に第六台場へ向かいます。
3. 穴ぐら:
漁師の裕之は、ある日突然、妻がいなくなります。 途方に暮れながらも漁に出た裕之は、海上で不可解な体験をし、それが原因で妻の失踪の真相に近づいていきます。
4. 夢の島クルーズ:
主人公の榎吉は、高校の同窓会で知り合った夫婦に誘われ、ヨットクルーズに参加します。 しかし、夫婦は外資系マルチ商法の販売員であり、ヨットの上で榎吉を勧誘することが目的でした。 勧誘にうんざりしていた榎吉でしたが、ヨットが航行不能に陥り、恐怖を体験します。
5. 漂流船:
マグロ漁船に乗る和男は、航海の途中で無人のクルーザーを発見します。 海上保安庁の指示でクルーザーを曳航することになった和男は、クルーザーに残された航海日誌を頼りに、クルーザーに乗っていた家族の身に起きた出来事を探っていきます。
6. ウォーターカラー:
舞台役者をしていた主人公が経験する、現実と虚構が曖昧になる恐怖を描いた作品。
7. 海に沈む森:
ケイビング愛好家の杉山は、仲間と洞窟探検に出かけます。 しかし、洞窟内で落盤事故が発生し、閉じ込められてしまいます。 杉山は、決死の思いで脱出を試みます。
これらの物語は、「人間の欲や甘え」といったテーマが根底にあります。
まとめ:仄暗い水の底から|映画・原作の小説の違いは?
映画と原作の「仄暗い水の底から」の大きな違いは2点あります。
- 亡くなった少女の描写: 原作では「誰かがいるような気がする」「気配がする」といった表現で、霊の存在をほのめかす程度なのに対し、映画では美津子の姿がより直接的に描かれています。例えば、水道から髪の毛が出てきたり、娘が浴槽に引きずり込まれそうになったりするシーンは、映画版独自の演出です。
- ラストシーン: 原作では、主人公が娘を連れてマンションから逃げ出すところで物語が終わります。一方、映画では、主人公は娘を守るために、美津子の母親代わりになることを決意し、娘と永遠に離れ離れになるという結末が描かれています。
これらの違いにより、原作では「日常に潜む恐怖」が強調されているのに対し、映画では「母と娘の愛情」を軸に、よりドラマティックで切ない物語が展開されています。