綾辻行人さんの小説「十角館の殺人」で犯人を示す伏線は、どのあたりになるんでしょうか?
またトリックについて予測可能な伏線や最後の一行とは?
十角館の殺人の考察|伏線の解説
「十角館の殺人」では、殺人の起こる角島と、本土のストーリーが時系列にそって交互に進行していきます。
読者は両方から推理を組み立てる必要があります。
島にいた合宿メンバーには得られない情報ですが、読者に与えられた本土の情報から推察すると、最後に見たエラリイとヴァンがみつけた死体は、吉川誠一です。
そして館の主、中村青司も事件当時に死んでいる可能性が高い。
つまり、四重殺人当時の容疑者は全員死亡しており、今回の犯人はそれとは別。
つまり、合宿メンバーの中にいることがわかります。
皆殺しを目標とした犯人が、うっかり途中で死ぬことは考えづらいので、最後に生き残ったエラリイかヴァンの二択になります。
そこで伏線から犯人を絞ることになります。
オルツィがみかけたボートを繋留するための縄。
(直接見たとは書いていませんがそのために殺された)
足跡が海に向かっていることから、犯人は島と本土を行き来しているということを推測できます。
エラリイは中村青司が猫島にいるためだからと推理しましたが、実際は2人のどちらかが本土と往復しています。
毒殺が主だったことから、このことは殺人とは関係ありません。
ではなぜそんなことをしたのか? それはアリバイ作りにほかなりません。
つまり、犯人はメンバーを皆殺しにした後、生き残るつもりなのです。
最後に館が炎上し、警察からメンバーは全員死亡の報告があった瞬間、最初に合宿メンバーを乗せていった猟師が存在を認識していない人物、一人だけでこっそりと本土に上陸することが出来たヴァンこそが犯人だと気づくという伏線です。
ちなみに、ヴァンが本土のあの人間と同一人物だということを完全に推理することは不可能です。
ただ、好みのタバコの銘柄などから、ある程度の推測はできますし、「ヴァン」が叔父の所有する屋敷に先に到着していて、他のメンバーを待っていた時点で「犯人」である可能性の伏線になります。
何故なら唯一の「11角の茶碗の存在」をトリックに利用する為に認識していたなど、事前に余裕を持って準備する必要があり、彼だけがそれをできる立場にいました。
他には、島にいるときも本土にいるときも常に「風邪をひいた」健康状態でした。これも伏線ですね。
本土でのアリバイつくりの為のバイクで移動しての景色のスケッチも「わざとらしさ」を感じさせ、暗に「先に書いておいた物で最近スケッチした物ではない」という疑いを抱かせる伏線でした。
ラストのエピローグの意味について。
犯人の守須は自分の犯行計画を全て記した瓶を海に投げていました。いずれ、それが人の手に渡った時に自分が裁かれるように、その奇跡的な確立を託してみたのです。
そして島田潔によって真相を暴かれた直後、あの時投げた瓶が自分のところに戻ってくるという”奇跡”が起きたため、これは自分に対する”神の裁き”と悟り、しかるべき処分を受ける覚悟を決めたことを示しています。
十角館の殺人の考察|最後の一行は?
『十角館の殺人』における「衝撃の1行」とは、守須くんのあだ名を刑事が質問して答えた、たった一言「ヴァン・ダインです」で犯人が判明するというもの。
てっきり、読者は勝手に彼のあだ名を「モーリス・ルブラン」と思い込まされていたところ、真相は「ヴァン・ダイン」であり、つまり「彼」こそ島での連続殺人犯だったと一気に判明する重要な一言だったという伏線でした。
それまで「モーリス・ルブラン」が守須のあだ名だと思っていた読者は、『ヴァン・ダインです』の一言で彼こそが犯人だと理解するわけです。
たった一言で、これまで見てきた『十角館の殺人』の構図が全てひっくり返ってしまう、まさに衝撃の1行でした。