映画「紅の豚」など戦闘機(飛行機)の両翼が雲を引く要因は?
「紅の豚」でポルコが操縦する戦闘機やブルーインパルスの飛行機の両翼から、雲を引くことがありますが、あれはどんな原理なのでしょうか?
雲を引くとは?紅の豚やブルーインパルス飛行機
映画「紅の豚」では空賊『マンマユート団』のボスが、ポルコとカーチスとの空中戦で「スゲエ! 豚が雲を引いた!」と、捻り込みの好位置に着こうと高速で急旋回するポルコの赤い戦闘飛行艇を見て言っています。
「雲を引く」時に見られる雲はヴェイパー(Vapour)と呼ばれる飛行機雲の一種です。
飛行機の翼上面では気圧が低くなっていて、大気は断熱膨張によって温度が下がっているため空気中に含まれる水分が凝結作用により発生します。
翼下面の空気がバンクにより、通常以上の揚力が生じて更に気圧が低くなった翼上面へと流れ込む断熱膨張で温度を下げる効果が生じます。
特に翼端付近では翼下面と上面の気圧差から翼端渦と呼ばれる渦が生じており、中心付近の低圧部で雲が生じやすい。
渦を巻いて流入する水蒸気を凝縮させた水滴が、後方へ引く雲筋として見えるのです。
最近のジェット戦闘機だと航空ショーなどの高機動飛行でグオンッと急旋回するとよく発生し、湿度が高い時はより低速でも発生しやすくなります。
ただ、「雲を引く」現象はセスナ機だとなかなかそんな芸当はできません。
世界で最も過酷な飛行機レース、エアレースでもそんな「雲を引く」現象は滅多にお目にかかることはありません。
現代のプロペラ機でも出すことが困難な芸当を「紅の豚」のポルコは近代のレシプロ機でやってのけちゃうくらいに相当な実力だってことです。
青空の下でレシプロ機が旋回中に翼端から「雲を引く」ベイパーを引くと云うのは、バケモノじみた推力を出している事の証明です。
ちなみに、エンジン排気中の水蒸気による飛行機雲低減として、B-2爆撃機には塩化フッ化スルホン酸を排気に混ぜ、飛行機雲の発生を抑えているそうです。
「紅の豚」でポルコが乗っている飛行機はサボイアS.21試作戦闘飛行艇。
ヒロインであるフィオによって再設計されドナルド・カーチスと死闘を繰り広げました。
「サボイアS.21」のモデルとなったのが「マッキM.33」です。
ただサボイアS.21は上下に2枚羽がついている複葉機のため、実際に映画「紅の豚」でモデルにされた飛行機はのは羽が1枚の単葉機であるマッキM.33のようです。
実在したサボイアS.21は1925年に開かれた飛行艇の速さを競う「シュナイダー・トロフィー・レース」の第5回に優勝候補として出場する予定でした。
■シュナイダー・トロフィー・レースとは?
フランスの富豪ジャック・シュナイダーが始めた水上飛行艇限定のスピードレースです。
レースの目的としては「航空機技術の発展」です。各国でスピードを競い合うことで技術を高め合いました。
しかし操縦士の病欠で出場できなかったことから、「幻の複葉艇」と称されています。
この逸話をモチーフにして「紅の豚」でもサボイアS.21はフィオのおじいさんが運営する飛行機製造工場の倉庫に保管され、日の目を見る事のなかった幻の飛行艇として登場することになりました。
宮崎駿著作「宮崎駿の雑想ノート」では、エンジンには水冷エンジンというエンジンの発熱を水で冷やすものを採用し、機関銃として第一次世界大戦でドイツ軍が使用した機関銃を積んでいるといった、リアルな設定が事細かに書かれています。