水の電気分解でなぜ水に水酸化ナトリウムを溶かすのでしょうか?
水酸化ナトリウム水溶液を電気分解すると、なぜ陰極に水素・陽極に酸素が集まるのでしょうか?
水酸化ナトリウム水溶液を電気分解する時、なぜナトリウムは電子を受け取らないのですか?
水酸化ナトリウムの電気分解でなぜ陰極に水素?
水酸化ナトリウム NaOH は水中でナトリウムイオン Na+ と水酸化物イオン OH- に解離(かいり)します。
NaOH → Na+ + OH- ……①
この溶液に電気を流すと、プラスの電気を帯びた Na+ はマイナス(陰極)側に、マイナスの電気を帯びた OH- はプラス(陽極)側に集まります。これを分極(ぶんきょく)と言います。
(1) 陽極側
マイナスの電気を帯びた OH- がプラスの電気に引かれて集まって来ます。
OH- ──→ [+]
陽極に電気が流れるとは、電子が陽極に流れ込むことです。これを溶液側から見れば、電子を陽極に取られることです。そこで、陽極に集まってきた OH- は電子を取られてしまいます。
OH- → OH ……②
電子を取られた OH は不安定なので、仲間の OH から H を取って H2O になります。すると残りはただの O になります。
2OH → H2O + O ……③
この O は、高校あたりでは「発生期の酸素」と呼びますが、あまりいい呼び名でなかったりします。これは不安定で、金属の表面などに短時間しか存在できないものです。すぐに仲間を見つけて O2 になります。
2O → O2 ……④
②③④をまとめましょう。矢印を逆に書き、
O2 ← 2O ← 4OH ← 4OH-
のように考えるとわかりやすい。余った 2H2O は矢印の右側に書きます。
4OH- → 2H2O + O2 ……⑤
OH 2つにつき1つできる O が2つ集まらなければならないので、2×2で OH が4つになり、めんどうな式になります。
ここでちょっと問題があります。プラスマイナスが合わない! OH- が電子を取られたのに、そのことを書いてないのが問題です。このあたりを中学校で教えるかどうかは忘れましたが、えーと、電子を英語で electron(エレクトロン)と言います。その頭文字をとって電子を e と書きます。さらに、電子はマイナスの電気を帯びているので e- と書きます。
4つの OH- が電子(e-)を1つづつ取られたので、合計で 4e- となります。化学式には左側に原料を、右側に製品を書きます。「取られたもの」は製品です。製品だから欲しいの。だから右側に書きます。したがって、
4OH- → 2H2O + O2 + 4e- ……⑥
が正しい式です。
(2) 陰極側
プラスの電気を帯びた Na+ がマイナスの電気に引かれて集まって来ます。
Na+ ──→ [-]
陰極に電気が流れることは、電子が流れ出ることです。これを溶液側から見れば、電子を受け取ることです。そこで、陰極に集まってきた Na+ は電子を受け取ります? いえいえ、
Na+ は水溶液中では反応できないのです。
代わりに水溶液中に大量にある水= H2O が反応します。水酸化ナトリウム溶液ですから、Na+ は周囲に OH- があると落ち着くのです。怒る Na+ をなだめるために、H2O が壊れて OH- を作ります。
Na+ ──→ OH- ← H2O → H+ [-] H2O
H2O → H+ + OH- ……⑦
陰極のそばですから、できた水素イオン H+ はマイナスの電気に引かれて陰極に達し、そこで電子をもらいます。
H+ + e- → H ……⑧
発生期の酸素 O と同様、発生期の水素 H も不安定で、すぐ仲間をみつけて H2 になります。
2H → H2 ……⑨
⑦⑧⑨をまとめましょう。
H2 ← 2H ← 2H+ ← 2H2O
余った 2OH- は製品なので右側、2e- はもらったもの(原料)なので左側。
2H2O + 2e- → H2 + 2OH- ……⑩
注意。⑥⑩の式通りの反応が起こると思ってはいけません。それぞれの電極の周りで起こる反応をまとめるとそうなるということを表現しているだけです。とくに⑥は4つの OH- が集まって反応するような印象を与えますが、そうではなく、無数の OH- がわいわい集まってドンパチ戦った結果、原料と製品の割合が4:2:1になると言ってるだけです。⑩も同様です。
⑥と⑩を並べて書くとこうなります。
4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
矢印の左側は原料、右側は製品ですから、せっかく製品ができても、それをすぐ原料に使ってしまえば最終製品にはなりません。そこで、原料と製品で共通するものを消すことを考えてみましょう。すると電子 e- の数が合わないのが気になります。プラス側とマイナス側で電流は等しいはずです。そこで下の式を2倍します。
4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
4H2O + 4e- → 2H2 + 4OH-
こうしてから、矢印の右と左で共通するものを消します。4e- が消え、4OH- が消え、4H2O と 2H2O は差し引いて 2H2O が残ります。結局、
2H2O → 2H2 + O2 ……⑪
陽極と陰極の反応を合わせると、水が水素と酸素に分解することだとわかります。
水酸化ナトリウム水溶液を電気分解するとなぜ濃度が濃くなるのかというと、水が分解される→水が減る ということです。
しかし水酸化ナトリウムの量は変わりません。
つまり水酸化ナトリウムの量が変わらないのに水だけ減っていくため、濃度が濃くなります。
ちなみに硫酸ナトリウムを使えば、陽極も陰極も水の電気分解反応となる。
陰極:2H2O + 2e^- → H2 + 2OH^-
陽極:2H2O → O2 + 4H^+ + 4^e-
硫酸イオンは水分子よりも電気分解されにくい。
水酸化ナトリウムの電気分解でぜナトリウムは電子を受け取らない?
水酸化ナトリウム水溶液を電気分解する時、なぜナトリウムは電子を受け取らないのかというと、イオン化傾向が大きい為です、イオン化傾向とは金属原子・水素原子がどれだけイオンになりやすいか(イオンになりたいか・イオンのままで居たい)という事で。
このためナトリウムイオンNa+はそのままで変化しません。
代わりに電子を得るのが、容器内にたくさん存在する水分子H2Oです。
2H2O + 2e- → H2 + 2OH-・・・水素が発生します。
一方陽極では、水酸化物イオンが、4OH-→ O2+ 2H2O + 4e-で酸素が発生します、水の電気分解になります。
●金属のイオン化傾向とは?
金属が水又は水溶液中で電子e-を放出して陽イオンになろうとする性質。
●イオン化傾向が大きいとは?
陽イオンになりやすい→電子を放出しやすい→酸化されやすい
●イオン化傾向が小さいとは?
陽イオンになりにくい→電子を放出しにくい→酸化されにくい
●イオン化傾向が小さい金属イオンを含む水溶液にイオン化傾向の大きな金属単体を浸せきすると?
イオン化傾向の大きな金属が酸化され溶解し、イオン化傾向の小さな金属が還元され析出する
金属名 元素記号 標準単極電位
リチウム Li -3.04
カリウム K -2.93
カルシウム Ca -2.76
ナトリウム Na -2.71
マグネシウム Mg -1.55
アルミニウム Al -1.662
マンガン Mn -1.185
亜鉛 Zn -0.762
クロム Cr -0.744
鉄 Fe -0.447
カドミウム Cd -0.403
コバルト Co -0.28
ニッケル Ni -0.257
すず Sn -0.138
鉛 Pb -0.1262
(水素) (H) 0
銅 Cu 0.342
水銀 Hg 0.851
銀 Ag 0.8
白金 Pt 1.118
金 Au 1.498
水酸化ナトリウムの電気分解でなぜ水に溶かす?電気を通す?
水の電気分解の際、水酸化ナトリウムを少量加えます
水の電気分解とうたって置きながら実際は水酸化ナトリウム水溶液の電気分解になっていますが、純粋な水はほとんど電気を通しません。
水道の水なんかは水のほかに色々混ざっているので電気が通ります。
純水では最初にほんの僅かに電気分解が起こった後、電極付近に生じたイオンの電荷のために次の電気分解が妨げられてしまう。
電気が通らなければもちろん電気分解はできません。
しかし、電解質水溶液にしておくと水溶液中のどこにでも陽イオン・陰イオンが存在し、電極付近の電荷を打ち消すことができる。
そこで水酸化ナトリウムを溶かすのです。すると電気はよく通るようになり、少しの電圧でも電気分解ができちゃうってことです。
本当は陰極にナトリウムが集まってきます。しかしナトリウムは水によく溶けるので無視できます。
電気分解は何回かやったことがあるかと思いますが、電極から泡がブクブクでてきますよね。それがブクブクからボゴボゴになったら激しくなるという表現がぴったりでしょう。
家でも実験出来ますよ。食塩を使うのです。とりあえずそれで電気分解自体はできます。食塩水なら電流が流れますので。
ただ、問題があります。
塩素が出てくるので。余計なものが出てきてしまうので困りますよね。(塩素は有害です)
水酸化ナトリウム水溶液の場合、そういった余計なものは出てこないので安心です。(とはいえ、家に水酸化ナトリウムは無いですよね。水酸化ナトリウム自体がそれなりに危険なので。)