「この世界の片隅に」にはワニの姿をした人さらいが出てきますが、何者なんでしょうか?
すずは危うく、ワニの人さらいに連れ去られそうになりましたが正体は?
ワニの人さらい(この世界の片隅に)の正体は何者?
「この世界の片隅に」でワニの人さらいはすずの幼児の頃の、現実とも夢とも区別の曖昧な記憶、といった体(てい)の話なのでかなり創作された人物。
原作ではあの人さらいは南方へ出征していった鬼ぃちゃんということになっています。映画でも右手があれば鬼ぃちゃんの南洋冒険記でも書いてあげられると言っていました
すずさんの中では、南の島で遭難した鬼ィチャンがワニの奥さんのため食料調達に来たことになっています。
南方で戦死し、遺骨すら戻らなかった兄の非業の死を、すず始め実家の浦野家一同、正面から受け止められてはいない描写でした。が、その家族すら原爆で失われていく。
輸送船が難破して無人島について、ひげボーボーになってワニと結婚して~と言っていたお話が原作ではすずが書いた漫画としてでてきます。その漫画で最終的に毛むくじゃらの人さらいの容姿になってしまいます。
ワニは、すずの兄、要一に関わる存在。「鬼ィチャン」こと、今は亡き要一と、すずとすみの三きょうだい…つまりワニもすずの幼い時代に繋がるキャラです。終盤近くですずが妹のすみを見舞った際、語り聞かせた自作の漫画…という形で。
人さらいは「夜までに帰らんと大変なことになる」と言っていました。そこですずが海苔で即席の夜を作りました。大変なこととは夜になると寝てしまうということだったというお話でしょう。
でも、ラスト、また、すずさんには、あのすずさんの空想による毛もじゃもじゃの怪物とさらにはワニさんまで、再び見えた。つまり、戦争が終わり、周作との夫婦の繋がりも深くなり、自分の居場所をみつけ、再び「普通」の感覚を取り戻したすずさんを、暗喩するためのメタファーなのかもしれません。
ワニの人さらいがすずと周作の「なれそめ」ともなり、少し前には、物々交換に出かけた先で、港内で朽ち果てた重巡洋艦「青葉」と、哲の後ろ姿も出て来ています。
哲というキャラは、すずの幸福な、無垢な幼年時代と直結した存在。
それとは気付くまでも無いほどに淡い思いを抱き合いながら、その後は別々の道を行ったが、ひょんな事から北條家に現れた哲の前でだけは、すずは屈託のない姿を露わに出来たりした。
夫の前ですら、見せた事の無いような。
周作は、そんな妻のありさまと相まって、この闖入者を「敢えて」妻と強引に二人っきりにしてしまう。
原作漫画では、遊郭のリンと周作の過去…というすずへの「負い目」が強調され、その辺との絡みで進行していくシークエンスなのですが、映画では大幅カット。断片的なディティールは残してありましたが。
色々な、時に悲惨な、様々を経た上で、すずと周作の絆は揺るぎなくなった。幼年期を“克服”?、“終了”?出来たすずにとって、もうあの人さらいは、周作とのなれそめ…言い換えれば「すでにことさら確認するような必要も無くなった」ところの、二人の愛情、絆、の揺るぎなさのつまり象徴、という事なのかも知れません。
ワニの人さらいは幻想に過ぎないのに、周作までもヤツを視認した、かの様な描写になったのでは。